家庭用は使えない?~飲食店用機器の選定【冷凍冷蔵庫編】~
飲食店を始めるにあたって、業務用の厨房屋さんに見積もりを取って「高っけ~」と思われる筆頭なのが『冷蔵庫(冷凍冷蔵庫)』です。
「高っけ~」と思いながらも厨房屋さんからの「家庭用はすぐ壊れるよ」だの「業務用途には向かない」だのという、ある種の脅し文句に屈して言われるがままに業務用の冷蔵庫を購入している方も多いことと思います。
最初に結論めいた事を書くのは憚られますが、「家庭用は(業務用途として使用すると)すぐ壊れる」は全くのデマです。
私が以前に機器類をお世話したハンバーグ屋さんは、40席で一日当たり100食以上を提供する人気店の部類ですが、ここでは10年以上も家庭用の3ドア冷蔵庫を2台使用しており、まったく不自由をしておりませんでしたし、家庭用の冷蔵庫ならではの使い勝手の良さ(野菜室がある、とか)にご満足で「業務用なんていらないよ」と豪語しておりました。
もちろん家庭用冷蔵庫を業務用途に使用して「すぐに壊れた」とおっしゃる方もいらっしゃいましょうが、それは「業務用途に向かない」ということではなく、ただ単にそこの厨房用に選んだ冷蔵庫が不向きだっただけなのだと思います。
では、家庭用の冷蔵庫で十分か、といえば話はそこまで単純ではありません。
業務用が「高っけ~」のにもそれなりの理由がありますので、そこいらを含めて「家庭用」は「業務用」に劣るのか、ちょっと比較してみようと思います。
家庭用で最も売れている(kakaku.com調べ)家庭用冷蔵庫である「SHARP SJ-F503G」をベースに、同等サイズの業務用冷凍冷蔵庫として「ホシザキ HR-63AT」を比較してみましょう。
外形と内容量がほぼ同等の、業務用の冷凍冷蔵庫「HRF-63AT」と、家庭用冷凍冷蔵庫「SJ-F503G」とではおよそ9万円の差があります。(kakaku.com上の最安値での比較です。必ずしもこの価格で購入できるとは限りませんのであらかじめご承知おきください)。
外形がほぼ同じでも家庭用冷蔵庫の方がやや容量が大きい(業務用:337L/家庭用:368L)ですね。また、家庭用冷蔵庫には業務用にはない「野菜室(温度変化の少ない冷蔵庫)」や「チルド室(高湿庫。ラップかけなくても食材が乾かない!)」、製氷機能(貯氷量7Lですから業務用途としては微々たるものではありますが...)まで備わっていますから、機能面は家庭用冷蔵庫の圧勝でしょう。
業務用と家庭用の大きな違いは、表中の黄線部にあります。
1.家庭用冷蔵庫の外装は錆びる。確実に。/業務用冷蔵庫は錆ずらい。だって素材が違うんだもの。
表にある通り、例示した業務用冷蔵庫の外装はステンレス製です。業務用として販売されている冷凍冷蔵庫のほぼすべてが外装にステンレスを用いています。しかし、家庭用冷蔵庫の仕様書には「外装:鋼板」と記載があるのみ。実は、家庭用の冷蔵庫の外装はほぼすべて、ステンレスではなく「鉄板」。
加えて、下の写真の通り、業務用の冷凍冷蔵庫は、その心臓部である「コンプレッサー」をはじめとする機器類を上部に配置していますが、家庭用の冷凍冷蔵庫の機器類はほぼ例外なく下部(野菜室の後ろあたり)に配置されています。
これは、家庭用の冷蔵庫は、高さを日本の建具の高さに合わせて考える必要があったため、重くて嵩張る機械室を上には付けられなかった、と誰かが言っていた気がします...。
まあ、なぜ下に機械室が、という理由よりも重要なのが、家庭用の冷蔵庫は下にある機械室が常に湿気の攻撃に晒される、という不都合な事実。
たまに閉店した飲食店の厨房内に家庭用の冷蔵庫がある場合がありますが、水溝(グレーチング)のある厨房内の家庭用冷蔵庫は例外なく移動させるのも難儀なくらい錆だらけで、コンプレッサーが今にも落下しそうになってしまっています。
業務用冷蔵庫がステンレス製なのは、飲食店の厨房のジメジメした環境下にも耐えうるように、という想定で最初から設計がなされているからなのです。
一般にステンレスは鉄板の倍以上の単価で調達する素材ですから、ステンレスを多用する業務用冷蔵庫はここだけ見ても家庭用冷蔵庫よりコストをかけて作られているから高価だ、ということができます。
水溝(グレーチング)のあるジメジメした厨房で使用する冷蔵庫・冷凍庫は業務用(というか外装がステンレス製のもの)を用いないと、確実に錆びて朽ち果てることになります。
反対に、ドライキッチン(水溝のない、排水しない床の厨房)で、ジメジメしない、家庭のキッチンのような環境下では、錆の心配をすることがありませんから、錆びるかどうか、という観点で言えば家庭用の冷凍冷蔵庫で十分だ、といえます。
2.内装がステンレスだと臭いがこもりずらい/樹脂内装は臭いが染み込みます。確実に。
リサイクル屋さんに陳列されている冷蔵庫を開けたときに、嫌な臭いに襲われたことはありませんか?
これは、内装の材質が原因なのです。
家庭用の冷蔵庫の内装に使用されている「ABS樹脂」(要するにプラスチック)は、目には見えないデコボコがあり、スポンジのような構造になっているので、きれいにきれいに掃除をしたとしても臭いのもととなる物質が染み込んでしまっていることが多いのです。
ステンレス素材はプラスチック類に比べて格段に表面が平滑ですから、細かな物質が染み込みずらいため衛生的だ、と言われています。
今(2021年5月現在)飲食店の皆さんを悩ませている「HACCP」でも、冷蔵庫の内装はステンレスが望ましい、とされていますが、理由はこういうことです。
まあ、HACCPは置いておくとして(これも取り上げなければならない重要なポイントですが)、臭いが気になるような食材を保存しない、ということであれば冷蔵庫は業務用である必要はない、ということになります。
3.業務用冷蔵庫は家庭用よりも冷却能力が格段に高い≒業務用はよく冷える
上の表に戻りますが、業務用の冷蔵庫は家庭用に比べて消費電力が倍以上ですよね。
庫内の容量はほぼ同じ(というか家庭用の方がやや大きい)のになぜ?と思いませんか?
これは、冷蔵庫の心臓部である「コンプレッサー」の性能差によるもの。
コンプレッサーの何たるやはまた機会があればご説明しますが、業務用の冷蔵庫に用いるコンプレッサーは家庭用のそれに比べて倍以上の冷却能力があるものがほとんど。
家庭の冷蔵庫は一日当たり平均で50回開閉するそうです(日立製作所調べ)。
飲食店の場合の統計は見つかりませんでしたが、居酒屋さんなどで1日に30組を迎えた場合、1組当たりの料理注文数を4品と仮定し、都度冷蔵庫を開閉すると考えると30×4=120回開閉する、ということになります。
「あ、〇〇出し忘れた。」となるとその分もっと多く冷蔵庫を開閉することになりますから、飲食店の冷蔵庫の開閉頻度は家庭の冷蔵庫のそれとは段違いであるはず。
冷蔵庫は10秒開放すると1℃庫内温度が上がると言われています。冷蔵庫の開閉頻度が高い=冷気が逃げることになりますから、冷却性能は最重要項目です。
開閉頻度の高い飲食店向けに冷却能力を確保するため、家庭用よりも高い冷却能力をもつ(高価な)コンプレッサーが採用されているのが業務用の冷蔵庫、ということになります。
これも反対に言えば、「冷蔵庫なんてそんなに開閉しないですよ。家と同じくらいでしょ。」という飲食店は、家庭用の冷蔵庫で十分事足りる、ということになります。
いかがでしたか?
飲食店で使用する冷蔵庫/冷凍庫は必ずしも業務用途でなければならないわけではない、ということがお分かりいただけたと思います。
ポイントは
1.厨房が「ドライキッチン」であること
2.強い臭いを発する食材を保管しないこと
3.開閉頻度が頻繁でないこと
これらを満たすのであれば、家庭用の冷蔵庫/冷凍庫を飲食店で使用するのには何ら問題はありません。
業務用と違い、家庭用の冷蔵庫/冷凍庫には、安価であるばかりでなくデザイン性の高いものや高付加価値機能を備えたものなど、様々な選択肢がありますから、使用する環境に応じて選んでみてください。
ただ、家庭用冷蔵庫が客席から丸見えだと、何とも言えない生活感が出て、私はちょっと嫌ですけどね…。
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